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体調が悪くなると歯が痛むのはなぜ?

歯とその周りには弱点がある

疲れた時、寝不足の時、あるいはストレスが溜まっている時、歯が痛くなることがあります。この原因の多くは体の免疫力が低下し、体が細菌に負けてしまって起こるというものです。全身問わずこの現象は起こり得るのですが、口の中は少し特別な事情があり、痛みが出ることが多くなります。簡単に言うと、細菌に対する弱点が口の中なのです。そのような口の中で、特に弱い箇所が痛みの出やすい場所になります。本記事では痛みの原因や出やすい場所、対策などについて解説させていただきます。

歯肉

口の中は細菌が非常に多い環境です。さらに歯が並んでいますから、綺麗に清掃するのは困難です。細菌が歯肉、粘膜に付着したままでいると炎症が起き、痛みが出ます。通常は自分の免疫力で細菌と戦っているのですが、体調が悪くなると免疫力が低下し、細菌に負けてしまいます。このように歯肉という弱点があり、ここが体調が悪くなったときに痛みが出る場所の一つです。

歯根膜

歯は硬い骨に埋まっているというイメージがあるかもしれませんが、実はそうではありません。歯と骨の間には、歯根膜と呼ばれる弾力性がある薄い膜があります。この歯根膜のお陰で私たちは噛み心地を感じることができるので、歯根膜は噛む上で非常に重要な部位であるといえます。

また例えば骨に直接歯が埋まっていたとしたら、物を噛む力で顎の骨などすぐにヒビが入ってしまいます。しかし弾性がある膜があることで、骨にかかる力が分散され、顎の骨が守られます。このように小さな歯根膜があることで私たちは大きな恩恵を受けています。

しかしそんな歯根膜ですが、歯肉同様に免疫力が低下すると細菌に対して弱くなります。そのため歯根膜は体調が悪いときに歯が痛くなる場所の一つです。

歯が痛くなる原因
歯肉炎・歯周病

歯肉に細菌が付着した状態が続くと、歯肉に炎症が起き、痛みが出ます。これを歯肉炎と呼びます。歯垢、プラークと呼ばれる細菌の塊が歯の周囲に蓄積することで、歯肉が絶えず細菌にさらされることで起こる軽度の炎症です。この炎症を歯周病と呼ぶのですが、歯肉炎は軽度の歯周病に分類されます。特に疲労など、体が弱っているときは細菌に対する抵抗力が落ちてしまいますから、炎症が強くなり、痛みの発生へとつながります。

根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)

歯の神経の先端は、根っこの先の穴から外に出ています。歯の神経を抜いている場合や神経が死んでしまっている歯の場合、この根っこの先から毒素が出てきます。この毒素によって炎症が引き起こされるのですが、必ずしも痛みが即座に出るという訳ではなく、人間の免疫力で慢性的な炎症にとどまり無症状であることが多いです。これを慢性根尖性歯周炎と呼びます。急なストレスや疲労により、痛みや腫れが出た状態を急性根尖性歯周炎と呼び、一般的に免疫力が落ちると発症します。

歯ぎしり・食いしばり

ストレスなどで歯ぎしりや食いしばりが起こることは珍しくありません。特にストレス・疲労が溜まった時の睡眠中などは頻繁にみられます。この時、歯根膜には過度な力がかかりますので細菌によるものでない炎症が起こります。歯根膜が怪我をしたといえば分かりやすいかもしれません。疲労によるストレスから歯根膜にダメージを与え、歯の痛みにつながるのです。

免疫力が崩れた状態とは?

免疫力は血液中にある白血球という細胞が支えています。特に白血球の中でも顆粒球とリンパ球と呼ばれる細胞が免疫力に関与しています。

顆粒球は細菌を処理する細胞です。そしてリンパ球がウイルスを処理します。成人ですと血液における割合が、顆粒球が55~60%、リンパ球が35~41%の範囲にあると免疫力が高い状態を維持していると言えます。しかしどちらかが極端に増減すると、免疫力が下がり、体の中の敵と戦えない状態になります。

ストレスが溜まっているサインに気づこう

分かりやすい過度なストレスのサインは抑うつ気分、何をしても気分が晴れないといったものでしょう。しかしストレスのサインはそれだけではありません。免疫力低下につながるストレスのコントロールも歯の痛み、不調に対して非常に重要です。早期に発見し、ストレスと付き合いましょう。

ストレスが溜まると気分が落ち込む抑うつ気分になるだけでなく、不安感やイライラといった心の問題やめまい、頭痛、胃痛、下痢や便秘といった体の不調が現れます。歯の痛みに加えてこういった症状が見られる場合、ストレスからくる食いしばりによる歯の痛みが起きている可能性があります。

ストレスのコントロールは心療内科や精神科が専門ですので、受診することをお勧めします。こういった場合を契機にストレスとうまく付き合えるようになることで、日常生活も楽になるかもしれません。

免疫力を高めるためには?
体を動かす

一日十分程度の体操をするだけでも良いので運動の習慣をつけることが大切です。

食事

脂肪や糖分が多くなりがちな洋食より、良質なタンパク質・ビタミン・ミネラルを摂取しやすい和食が免疫機能を維持するためには望ましいです。

睡眠

睡眠のリズムで交感神経と副交感神経のリズムを整えます。

【交感神経と副交感神経】

免疫が正常に働くためには自律神経がバランスよく働いている必要があります。自律神経には交感神経と副交感神経があり、前者は主に活動しているときに優位になります。また副交感神経は夜間、リラックスしているときに優位に働きます。後者は体を回復させる神経で免疫機能を正常にする作用があります。活動と眠りで自律神経をしっかりと活動させ、免疫力を維持し高めることが重要です。

笑う

NK細胞という免疫をつかさどる細胞が笑うことで活性化されます。

体を温める

体温が高いとリンパ球が増えて活性化します。また体が温まると副交感神経が優位になります。

リラックス

ストレスと関連しますが、手を抜くことも意識してください。責任感が強いことは素晴らしいです。しかしそれで歯が痛くなって仕事ができない時間ができては元も子もありません。

痛みの対処

疲れたときに歯に痛みが出たときは、まずは安静にしてください。低下した免疫力が元に戻ってきます。免疫力が戻れば細菌をコントロールできるようになり、自然に痛みが消えていくことがあります。しかし程度問題ですので安静にするだけで痛みが消える訳ではありません。

痛みの治療

安静にしても痛みが消えない場合、専門的な治療が必要になってきます。内容は歯周病と根尖性歯周炎、食いしばりで異なります。

まず初めに共通するのは痛み止めの服用です。いわゆる対症療法と呼ばれるもので、痛みそのものを抑える薬を飲みます。そして歯周病や根尖性歯周炎の場合は、体が細菌に負けてしまっていますので抗菌薬(抗生物質)で細菌を殺します。こうして免疫の代わりに薬で細菌をコントロールします。

【歯周病治療】

まずは治療ができるように、上述の抗菌薬と痛み止めで炎症を一旦抑えます。治療できる程度になったら歯周病治療を開始します。歯周病治療の基本はプラークの除去です。プラークに唾液中のカルシウムが沈着し、歯石になっている場合は歯石の除去も重要です。こうして細菌を機械的に除去することで炎症(腫れ上がった状態)を治癒させます。また痛みが出ている急性期には軟膏を歯周ポケットに直接詰めることもあります。この中には抗菌薬、ステロイドなどが入っています。ステロイドは体が炎症を起こすという自然に起きる反応を強制的に遮る効果がありますので、このお薬は細菌を殺して痛みや腫れを止めるという効果があります。歯科医院での治療の一環として行われます。

【根尖性歯周炎】

根尖性歯周炎の治療も同様にお薬の内服から始まります。治療が開始できる程度に痛みが引いてきたら、根尖性歯周炎の治療を始めます。根尖性歯周炎の治療は最初の状態によって多少異なりますが、内容としては似通っています。歯の中心には神経が通った管があるのですが、そこに細菌が入ってしまったことが根尖性歯周炎の原因です。そのため管の周囲を細い針金状の器具で削っていき、細菌が入った部分を取り除き、歯から細菌を除去します。最初の状態によって治療の流れが少し変わり、すでに神経を抜いてしまっている場合と神経を抜いていない場合で手順が異なります。すでに神経を抜いている場合、お薬が詰まっていますからそれの除去から、未治療の歯であればその工程はなしに神経を抜いていきます。歯の中の管をクリーニングするイメージを持っていただいて結構かと思います。

【食いしばり・噛み合わせ】

こちらは細菌によるものではありませんから痛み止めだけの内服から始まります。そして即座にマウスピースの作製に取り掛かります。痛みの出る歯は他の歯に比べて強く当たっていますから、他の歯の高さを調整することでその歯への負担を減らすことが目的です。マウスピースはレジン(樹脂)ですから調整が可能で、複数回来院していただき、最適な高さに持っていき歯の安静を図ります。基本的にストレスなどを抜本的に解決しない限りこの痛みは続きますので、マウスピースは長期に渡って持っておくことをオススメします。なお、マウスピースは正式にはスプリントと呼ばれます。

放置するとどうなるの?

疲労があるときだけ痛みが出る程度の歯周病、根尖性歯周炎程度であれば、治療で十分に症状は改善されると思われます。ただし放置すると痛みが常に持続するようになり、最終的には耐え難い痛みが続くようになります。こうなったら治療不可で抜歯に至るケースになってしまう可能性が高いです。免疫力低下時の痛みは、弱っている場所を知らせるサインだと思ってください。

食いしばりについてはストレスが関与していますので、日常がオーバーワークになっていないか見直すきっかけにしていただければ良いかと思います。ストレスを放置するとうつ病などにも発展しますので、一度生活を見直すことも悪くありません。歯科的には放置すると顎の関節を痛め、顎関節症にもつながります。顎関節症は長患いする疾患ですので、長期的に苦痛を感じることになります。

まとめ

疲れた時の歯の痛みの原因は細菌によるものと物理的なものがあります。前者が歯周病と根尖性歯周炎、後者が食いしばりです。いずれも治療可能で、疲労時だけ症状が出ているということは悪いところがあるというサインを体が発していると受け取って欲しいところです。放置すると歯を失ったり、顎関節症のように長患いする疾患に発展したりと、デメリットは大きいです。些細なことだと思わず、異常があればすぐに歯科医院を受診するようにしてください。

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